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福岡地方裁判所 昭和44年(ワ)819号 判決

原告 筒井ゴム工業株式会社

右訴訟代理人弁護士 岩崎光太郎

同復代理人弁護士 大原圭次郎

被告 第一靴下株式株社

右訴訟代理人弁護士 石橋重太郎

主文

被告は原告に対し、金二二五、〇〇〇円およびこれに対する昭和四三年九月一九日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は第一項に限り原告において金七万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

一、原告

(1)  主文第一、二項同旨。

(2)  仮執行宣言。

二、被告

(1)  原告の請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

(3)  担保を条件とする仮執行免脱宣言。

第二、主張関係

原告の請求原因

一、原告はゴム製品等の販売業を営む会社であるが、被告に対し、左のとおりいずれも代金支払期日を売渡の翌月一八日とする約束で寸法五〇ミリのダクトホースを売渡した。

売渡日 数量

(1)  昭和四三年八月二日 三〇〇米

(2)  同年同月一三日 二〇〇米

単価 代金

四五〇円 一三五、〇〇〇円

同右 九〇、〇〇〇円

二、仮に被告主張のように本件売買における買付発注者が訴外江崎鉄工所であったとしても、本件売買につき被告は買主としての責任を負うものである。

(一)  本件ホースの発注は、原告と従前取引関係の存した被告名義をもってなされ、その寸法等従前の注文品と同じ物という指定であり、荷送先についても被告会社以外の場所を特に指定したものではなかった。

(二)  原告は右発注に係る本件ホースを、いずれも嘉穂郡稲築町所在の被告会社山野工場に送り届けたところ、被告会社担当者豊田真由美によりその受領がなされた。

(三)  売買代金の支払の衝に被告会社山野工場長があたった。

(四)  原告と江崎鉄工所とは取引関係も一面識もなかった。

(五)  江崎鉄工所は被告会社山野工場の冷暖房関係工事を請負っていた関係にあったから、同工場の工場に関し、被告は江崎鉄工所と共通の利害を有していた。

右のような各事実があることにより、被告は江崎鉄工所に対し、被告名義を使用して原告と本件ホースの売買契約をなすことを許諾していたものと認められ、原告は本件売買の買主を被告と信じて取引したのであるから、商法第二三条および民法第一〇九条直接又は類推して適用することにより、被告は本件売買につきその責を免れ得ないものであるのみならず、前記各事実のある本件においては、被告は自己が本件ホースの買付注文者でない旨を主張することは信義則に反し許されないものである。

三、仮に、被告が買主としての責任を負わないとしても、被告会社従業員訴外豊田真由美は被告会社を荷受人とする本件ホースが被告会社山野工場に配達された際、被告が本件ホースの注文者でないことを知りながら、このことを運送人又は原告に通知することなく、漫然と訴外江崎鉄工所に引渡したことにより、原告は本件ホースの売買代金相当額の損害を被った。

四、よって、原告は被告に対し、本訴により第一次的に本件取引に基づく売買代金支払義務の履行を求め、予備的に、不法行為に基づく民法七一五条所定の使用者の損害賠償義務の履行を求めるものとして、金二二五、〇〇〇円およびこれに対する支払期日の翌日である昭和四三年九月一九日以降完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

被告の答弁

一、請求原因第一項の事実中、原告がゴム製品等の販売業を営む会社であることは認めるが、その余は否認する。本件物品の発注者は被告ではなく、被告が被告会社山野工場の冷暖房関係工事を請負わせていた訴外江崎鉄工所である。同訴外人は右請負工事施行に要する材料として本件ホースの買受けを原告に注文したのである。

二、請求原因第二項の事実中、原告より本件ホースが被告会社山野工場に配達され、被告会社従業員豊田真由美がこれを受領したこと(ただし、豊田は担当者ではない。)、被告会社山野工場長が代金の支払い折衝に関与した事実は認めるが、その余は争う。本件ホースの買受注文が被告名義でなされたとすれば、それは江崎鉄工所が無断で被告名義を冒用したのである。豊田は受領した本件ホースを直ちに発注者江崎鉄工所に交付した。右工場長が代金支払折衝に関与したのは江崎鉄工所に依頼されたからである。

三、請求原因第三項については、被告会社山野工場に配達された本件ホースの注文者を江崎鉄工所と知った豊田が、これを江崎鉄工所に引渡したことは、当然の措置であり、なんら不法行為に該当するものではない。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

一、原告がゴム製品等の販売業を営む会社であり、本件ホースが被告会社山野工場に配達され、被告会社従業員訴外豊田真由美がこれを受領したことは当事者間に争いがない。

二、〈証拠〉を綜合すると、次の各事実を認めることができ、証人高木玉五郎の証言及び被告代表者尋問の結果中、右認定に反する部分は、その余の各証拠に照し、措信できないし、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(1)  被告会社は靴下製造を業とするもので嘉穂郡稲築町に山野工場なる名称の製造工場を設けていた。

(2)  原告販売のダクトホースは訴外東拓工業株式会社製造に係るもので、同訴外会社は販売会社たる原告を通じて製品を需要者に供給していた。

(3)  原告と被告とは、昭和四二年中に原告より被告に対し、本件ホースと同じ東拓工業株式会社製の五〇ミリダクトホースを売渡す売買取引をしたことがあり、右取引は、被告会社代表者才田友弘と知り合いの同訴外会社役員の紹介によるものであり、右ホースは被告山野工場の靴下製造機械の部品として取付け使用するためのものであった。

(4)  昭和四三年七月下旬頃、原告会社に対し、電話で被告会社の従業員と称する者から、前に取引きした品物と同じ五〇ミリのダクトホース五〇〇米を買受けたい旨の注文がなされ、同じ頃、東拓工業株式会社福岡出張所にもその旨の電話連絡があった。

原告はこれを承諾して、右訴外会社に注文し被告を荷受人として直接被告山野工場に送荷させ、同年八月五日頃、代金一三五、〇〇〇円相当の五〇ミリダクトホース三〇〇米、同月一二日頃代金九万円相当の同ホース二〇〇米が、訴外運送業者により、いずれも被告山野工場に配達され、倉庫係として外部との物品受渡を担当していた被告従業員豊田真由美がこれを受領した。

(5)  被告は昭和四二年中より、同工場敷地内に被告が増設中の工場の冷暖房装置及び靴下製造機械設備一部の設置工事につき、これを訴外江崎鉄工所に請負わせ、同工場内に同訴外人の作業事務所を置かせていた。

右請負工事については、これに必要な資材のうち高額なものを被告が支給し、比較的少額なものは江崎鉄工所が調達すべきものとされ、具体的にはその都度被告と江崎鉄工所とが協議して取り決めていた。

(6)  本件ホースは江崎鉄工所請負の機械設備に取付け使用するものであったため、これを受領した豊田は、江崎鉄工所にこれを引渡した。その際豊田は、調査の結果本件ホースが被告会社直接注文の品物でなく、江崎鉄工所が被告名義で注文したものと判明したが、従前同様の事例が一度ならずあり、同様の処置をしたが、後に特に問題とならなかったので、それにならって処理したものである。

(7)  原告は、従来江崎鉄工所とは取引したことはなく、被告山野工場内に江崎鉄工所が仕事をしていたことも知らなかったが、前記注文を受けて注文者が被告であるものと信じ、本件ホースを同工場に送付させた。

(8)  本件ホースは江崎鉄工所により現実に被告所有の靴下製造機械に部品として取付けられた。

(9)  原告は同年九月一八日を初めとして数回にわたり被告山野工場に販売担当者横尾敬治を派遣して本件ホースの代金二二万五、〇〇〇円の支払を被告に請求したところ、同工場の責任者である工場長高木玉五郎が専らこれに応待し、江崎鉄工所が応待したことはなく、高木は、はじめは特に争わなかった被告注文の点を後になって否定し、江崎鉄工所が注文主である旨主張するようになった。

三、以上の事実によれば、本件ホースの実際の買受注文は江崎鉄工所の担当者が被告名義を用いてなしたものであるところ、被告が江崎鉄工所に対し特に指示して被告名義で本件ホースの買受注文をなさしめた疑いも相当に濃厚ではあるが、この点を確認するには証拠上未だ不十分である。

しかし、前叙の各事実を綜合すると、被告と江崎鉄工所とは、その営む事業内容を異にするものではあるけれども、少なくとも被告は、江崎鉄工所が、一般的には被告工場設備に取付使用するものとして本件ホース程度の代金額の資材を、被告名義を用いて外部に買受発注することを黙認していたものと推認すべく、また、被告の物品受渡担当機関において被告に対する売渡物件として送付されてきた本件ホースを受領後そのまま江崎鉄工所に交付し処分してしまったものであり、原告は買主が被告であると信じて本件取引をなしたものであるから、商法第二三条、民法第一〇九条を類推して、被告は江崎鉄工所が原告の名義を用いてなした本件売買につき買主としての責任を負うものと解すべきである。

四、そして、本件売買につき原告主張の代金弁済期日の約定を認めるに足りる証拠はないけれども、昭和四三年九月一八日原告より被告に対し代金支払請求のなされたことは前認定のとおりであるから、被告は、これにより同日限り遅滞に付せられたものということができ、前記売買代金二二五、〇〇〇円及びこれに対する同月一九日以降完済までの商事法定利率による遅延損害金を原告に支払うべき義務あるものということができる。

よって、右義務の履行を求める原告の本訴請求は理由があるから、これを正当として認容すべく、民訴法八九条、一九六条に則り、主文のとおり判決する。被告申立に係る仮執行免脱宣言は、不相当としてこれを付さない。

(裁判官 渡辺惺)

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